蒔き苔[まきゴケ]法とは苔の繁殖方法の一つで、苔を細かく刻んだものをタネ苔とし、それらを土に蒔いて発芽させるやり方のことです。苔の種類にもよりますが、多くの苔はこのやり方で増やすことができます。
蒔き苔を行ってから立派な苔に生長するまでにはかなりの時間がかかりますが、育つと自然な仕上がりとなるため、ほかの増やし方(移植法や張り苔法)には無い利点があります。
そこで今回は、蒔き苔の仕組みやメリット・デメリット、蒔き苔で増やせる苔の種類についてお伝えしていきます。
※蒔き苔のやり方についてはこちらの記事にまとめています。
蒔き苔とはクローンをつくること
苔の繁殖方法には有性生殖と無性生殖があります。(種類によって異なりますが、どちらの生殖方法も持ち合わせている苔が多いです。)
苔の有性生殖は、雄株と雌株による受精によって受精卵がつくられ、そこから胞子体を形成し、胞子で増殖するという方法です。
一方、無性生殖は受精を行うことなく、素[もと]となる苔と全く同じ遺伝子で増えるため、この方法で生まれた子はクローンとも呼ばれます。
蒔き苔は胞子からではなく、タネ苔(苔の葉や茎の一部など)から発芽させるため、無性生殖にあたります。
苔は胞子で増やすよりも、クローンで増やすほうが手軽で効率的です!
蒔き苔のメリット
苔が自然に生え揃う
苔をまんべんなく土に蒔いて育てる蒔き苔は、苔同士の継ぎ目や崩れの少ないシート状に芽が生えてきます。そのため、植えたい表土全面に苔の一体感が欲しい場合などに適しています。
苔を基物に着生させやすい
石や流木などの基物[きぶつ]に苔を生やしたいと思っても、生長しきった苔を上に乗せただけではすぐに外れてしまいます。そのような時は基物に蒔き苔を行い、小さい芽の段階から仮根をしっかりと活着させるのが一般的です。
環境の変化を避けられる
張り苔法や移植法を行った場合には、新しい環境への変化や、移植時のダメージにより苔が枯れてしまう可能性がありますが、蒔き苔法の場合は植えたい場所で育てることもできるため、それらのリスクを回避できます。
コスパが良い
蒔き苔は、必要となるタネ苔が少なくて済むため、苔を生やしたい面積に対する費用を抑えることができます。特に葉や茎が長い苔は、細かく刻んで横に広げるとかなりのスペースに蒔くことが可能です。
蒔き苔のデメリット
成熟するのに時間がかかる
蒔いた苔から芽が出るのは、2週間~1ヶ月くらいかかります。さらに、苔の厚みや高さがでてきたり、半円球状のコロニーを形成したりするのは、かなりの年月を要します。(苔によっても異なりますが、立派な苔になるには3~5年程度かかる苔もあります。)
薄いシート状で良いのであれば1年以内にできる苔も多いですが、苔テラリウムや盆栽に厚みやボリュームのある苔を使いたいという場合には、蒔き苔法はあまり適していないかもしれません。
環境を維持する必要がある
乾燥を好む苔であっても、蒔き苔をしたあとの1ヶ月程度は乾燥させず、小まめに霧吹きで水を与える必要があります。
また、屋外で育てる場合は気温が低すぎたり高すぎたりすると、発芽や生長に悪影響を与えるため、育てる環境には注意が必要です。
僕はフードパックの中に土を張り、蒔き苔で生長を一から観察するのが好きです。ただとても時間がかかるので、増やすのが目的の場合は大きな容器でいっぺんに育てたほうが良いかもしれません。
蒔き苔法で増やせる苔の種類
一般的に園芸として利用される苔であれば、ほとんどの苔は蒔き苔で増やすことが出来ますが、先ほど挙げたデメリットを考えると、蒔き苔法では効率が悪い場合があります。
例えば、生長の遅い苔や大型の苔がそれに当たります。これらは細かく刻んで一から育てようとすると、元の姿になるまでにかなりの時間がかかってしまいます。
そのような場合は、移植法(株分け)で増やしたり、蒔き苔をするにしても、細かく刻まずに大きめに切ったりするなどの工夫が必要となります。
蒔き苔で増やしやすい苔
タマゴケ、スナゴケ、ハイゴケ、シノブゴケ、コツボゴケ、ギンゴケ、ホソウリゴケ、スギゴケ、タチゴケ、コスギゴケ、ヒツジゴケ、シッポゴケなど。
蒔き苔で増やしにくい苔
カサゴケ、コウヤノマンネングサ、ヒノキゴケ、ホソバオキナゴケなど。
まとめ
蒔き苔法は、苔を無性生殖で増殖させるための方法の一つであり、苔の種類にもよりますが、比較的に効率良く苔を増やすことが出来ます。
しかし、時間がかかるという大きなデメリットもあり、安価の苔は「買ったほうが早い」という結論になることもあるため、事前にその苔の生長スピード等を把握しておく必要があります。
ただ、苔を増やすのが目的ではなく、基物に苔を着生させる目的の場合や、苔の観察が目的の場合には、非常に便利な方法と言えるでしょう。
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