蒔き苔法は、少量の苔から広い面積の苔を繁殖させることができるため、苔を増やしたい場合にはよく行われる方法の一つです。
しかし、やり方を間違えると通常よりも生長が遅れたり、最悪の場合は芽が出ないということにも繋がります。
そこで、蒔き苔に適した時期や必要なもの、具体的な手順など、失敗しにくい蒔き苔のやり方について詳しくお伝えしていきます。
※蒔き苔は簡単に苔を増やすことができますが、生長するまでに長い期間を要するなどのデメリットもあります。蒔き苔を行う前にメリット・デメリットについて確認する場合はこちらをご覧ください。
最適な蒔き苔の時期
屋外で管理する場合は、蒔き苔を行う時期も頭に入れておくと失敗しにくいです。
夏は苔や土の乾燥が早くなるため、7月くらいまでには芽をある程度の大きさに生長させておいたほうが無難です。そのため、夏までに蒔き苔をするのであれば、最低気温が10度以上になってきた春ごろがベストです。
夏以降に蒔き苔を行う場合は、気温が極端に下がる12月くらいまでには芽を生長させておくと良いため、夏の気温が下がってきた9月ごろに行うのが良いでしょう。
室内で管理する場合は気温の変化が少ないため、特に時期は気にしなくても大丈夫ですが、エアコンなどの乾燥には注意しましょう。
蒔き苔に使う材料と道具
蒔き苔を行うには、次のような材料と道具を使います。
タネ苔、容器、用土、※目土、※キッチンペーパー。
※目土、キッチンペーパーは無くても可能ですが、発芽率や管理のしやすさが変わってきます。石や流木などに蒔き苔で着生させる場合は、用土、目土、キッチンペーパーは必要ありません。
タネ苔
素[もと]になる苔です。葉や茎を細かい大きさに刻んだり粉砕して、土の上に蒔きます。苔は乾燥していても湿っていても問題ありませんが、乾燥に強い苔は先に乾燥させておくと粉砕しやすく、パラパラと蒔きやすくなります。
容器
容器は特に決まりはありません。シート状に育成して張り苔などで使用する場合は、育苗箱[いくびょうばこ]やトレイ、プランターやフードパックなどを使用しても良いでしょう。
もちろん、張り苔はせずに苔テラリウムや盆栽の表土、石や流木などの基物[きぶつ]に直接蒔いても構いません。
ただし、その場合は乾燥が早く、芽の生長が止まったり枯れたりする可能性があるため、乾きにくい容器(蓋のある容器など)の中で管理するほうが手間がかからなくて済みます。
用土
用土は苔に使用する普通の用土でも構いませんが、保水性の高いもの(腐葉土やピートモス、樹皮培養土など)を混ぜ込むと乾燥を防ぎやすくなります。
もし、粒状の黒土や赤玉土を多めに使用する場合は、粒の大きさに注意しましょう。粒の大きい土ばかりを配合すると、細かく蒔いた苔が流れ出てしまうこともあるため、できるだけ粒の細かいもの(細粒)を使うと良いでしょう。
用土の配合例としては、黒土または赤玉土(7):腐葉土またはピートモス(3)、排水性も必要なスナゴケなどの場合は、黒土または赤玉土(4):川砂または山砂(4):腐葉土またはピートモス(2)くらいが良いです。
ただし、これらはあくまでも目安です。苔の種類、容器の種類、水やりの頻度によって、保水性と排水性のバランスを調整したほうが良いでしょう。
目土
目土[めつち]とは、上から軽く振りかける土のことです。必ず必要というわけではありませんが、乾燥や日差しから苔を守ってくれる効果があるため、外で管理する場合は特に目土を入れたほうが良いでしょう。
目土の配合は用土と同じものでも良いですが、腐葉土やピートモスには大きめの木くずなどが入っている場合があります。これらは苔の上に大きく被さる可能性があるため、使用しないか、細かく砕いたものを使用しましょう。
面倒な場合は、細粒の赤玉土か黒土のみ、もしくはそれに細粒の川砂を同じくらい混ぜたものでも良いです。排水性が必要な苔の場合は、細粒の川砂だけでも構いません。
キッチンペーパー
シート状に蒔き苔を行う際は、蒔いた苔の上からキッチンペーパーを被せておくと乾燥を適度に防げるため、発芽しやすくなります。(育成中は、ふやけたペーパーで見栄えが悪くなるため、苔テラリウムなどに直接蒔く場合にはお勧めしません。)
素材は必ずパルプ100%のものを使用します。時間がたつに連れて溶けて無くなる(繊維レベルに分解される)ため、苔が発芽し、ある程度の大きさになるまでの間だけ保水効果を高めることができます。
2枚重ねになっているものは1枚で使用し、薄くて破れやすいものを選んでおくと良いでしょう。薄めのものは2~3ヶ月ほどで無くなりますが、厚いものは半年以上残る場合もありますので注意してください。
蒔き苔は、乾燥さないようにすること、高温・低温を避けること、水で流されないようにすること、風で飛ばされないようにすることが大切です!
蒔き苔の手順
材料が揃ったら、蒔き苔を始めましょう。基本的には次のような手順で作成することができます。
タネ苔を細かくする
苔に茶色く枯れた部分がある場合は、カビの原因にもなるため、先に取り除いてから苔を細かくしていきましょう。乾燥した苔は手で軽く揉み込むだけで簡単に崩れていきます。
苔は1枚の葉っぱからでも芽を出すことができるため、基本的にはパラパラと蒔きやすい大きさにして構いませんが、生長が遅いものや大きめの苔は、小さくなりすぎないように注意しましょう。
弾力のある苔や湿っている苔は揉み込むだけでは粉砕できないため、ハサミで刻んでいきます。葉の付け根あたりから切ったり、茎を何等分かに切ったりして細かくしていきましょう。
用土を容器に入れる
容器に用土を入れていきます。トレイなどの大きめの容器で苔シートを作る場合には、最低でも3cm以上の深さが良いとされていますが、小さめの容器の場合は5mm程度でも構いません。
また、歪みのない苔シートを作りたい場合は、苔を蒔く前に土を水平にならしておきましょう。
その後、霧吹きなどで湿らせたら土は準備完了です。用土を使わず、石や流木などに直接蒔く場合も、先に基物を軽く湿らせておくと良いでしょう。
タネ苔を蒔く
タネ苔を全体に薄く蒔いていきます。ムラができないように注意し、苔が重なってしまった部分はできるだけ広げるようにします。
全体に蒔き終わったら上から手で軽く押さえて、苔と土を密着させましょう。
目土を入れる
苔を蒔いた上から、目土を軽く振りかけます。苔が完全に埋まってしまわないように注意しながら、苔が見え隠れするくらいの量をパラパラとかけます。
苔が完全に下敷きになってしまうと、逆に苔の生長に悪影響を与えますので、注意を払いながら目土を入れましょう。
キッチンペーパーを被せる
最後にキッチンペーパーで全体を覆い、霧吹きで湿らせます。ペーパー同士が重なったり、端のほうを折り曲げて重ねたりすると、ペーパーが溶けきらない原因になるため、容器の大きさを超えた部分はカットしておきましょう。
これで蒔き苔の作業は完了です。苔の発芽には日光を必要としないため、直射日光の当たらない明るい日陰に置いて管理しましょう。
ペーパーが乾かないように霧吹きを与えながら2週間~1ヶ月ほど経つと、ペーパーの破れた裂け目から苔の芽が出てくるはずです。
まとめ
立派な苔になるまでには、時間と手間がかかる蒔き苔ですが、乾燥や気温にさえ注意していればあまり難しく考える必要はなく、試してみると意外にも簡単に増えていきます。
室内で苔の生長を一から観察するのにも適しているため、蓋ができるフードパックなどの容器で育てると、水やりの頻度も少なくて済み、手間もかかりません。
一度に大量の苔を増やすのは心配という方は、まずは少量から、苔の特性を理解しながら行ってみると良いでしょう。
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