【苔の分類】蘚類、苔類、ツノゴケ類はもう古い?新しい分類と特徴

苔[コケ]

苔[コケ]は世界に約2万種、日本に約1800種が確認されていますが、まだまだ分かっていないことも多いため、分類が難しい植物と言われています。

さらに近年、苔の分類方法が大きく変更されていたり、未だに分類されていない種類も数多く存在するため、未知の部分が多い植物でもあります。

そのため、一見、複雑そうなコケ植物ですが、大まかな分類であればあまり難しいものではありません。苔好きの人であれば、知識の一つとして知っておくのも良いかもしれません。

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コケ植物とは

コケ植物の分類と特徴

世界に存在する植物は大きく分けると、種[タネ]で繁殖する種子植物と、胞子で繁殖する胞子植物に分けられ、苔は胞子植物にあたります。

さらに胞子植物は、維管束[いかんそく](吸い上げた水や養分を運ぶ内部組織)があるシダ植物と、維管束がないコケ植物に分けられます。

コケ植物は、水を吸い上げるための根は持っておらず、葉や茎の細胞が直に水分を吸収するという特徴を持っています。(根のように見えるものは仮根[かこん]と呼ばれるもので、草体を支えるためのものです。)

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苔の中には、維管束に似た道束[どうそく](中心束)と呼ばれる、原始的な通道組織を持つ種類もあるようです。

コケ植物の分類方法は変更されている

以前の分類方法では、コケ植物といえば「コケ植物門」という分類の下に、蘚類[せんるい](蘚網)、苔類[たいるい](苔網)、ツノゴケ類(ツノゴケ綱)という分類がありました。

しかし、2006年頃からコケ植物の分類方法は再検討され、蘚類は「マゴケ植物門」、苔類は「ゼニゴケ植物門」、ツノゴケ類は「ツノゴケ植物門」と呼ばれるようになりました。

一見、分類の名前が変わっただけのようにも見えますが、各分類が門[もん]という分類に格上げされた形となっており、この3つの門の総称が「コケ植物」となります。

つまり、以前まで「コケ植物門」というグループで一緒くたにされていた3つの分類が、それぞれ独立した門とされるようになったため、分類学的にはより区別されるようになったということになります。

しかし、分類方法が変わった今でも、蘚類、苔類、ツノゴケ類と呼ばれることは多いです。それは、以前からの名称のほうが分かりやすかったり、文字数が少なくて呼びやすかったりするため、あえてそう読んでいる方が多いからだと思われます。

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長い歴史的に言えば、分類方法が見直されたのは最近のことなので、やはりコケ植物はまだまだ謎が多い植物という印象があります。

コケ植物の3つの門の特徴

コケ植物を構成する3つの門はそれぞれ異なる特徴を持っています。

マゴケ植物門(旧蘚類)

苔テラリウムや苔盆栽、苔玉などで使用される見た目の美しい苔は、ほとんどがこのマゴケ植物門です。

見た目の特徴は、茎葉体[けいようたい](草体が葉と茎に分かれているもの)であり、茎から螺旋状に葉が出ているものが多いです。また、多くの場合は葉に中肋[ちゅうろく]とよばれる中心の軸があります。

※厳密には「茎葉体」とは、維管束のある植物に使う言葉ですが、便宜上、形状だけの意味で「茎葉体」と表現しています。そもそも、コケ植物は葉と茎の区別が無い植物とされていますが、ここでは便宜上「葉のようなもの」を「葉」、「茎のようなもの」を「茎」と表現しています。

茎は直立して上に伸びるものや、匍匐[ほふく]しながら横に広がるものがあり、生長の仕方は様々です。

胞子は胞子体の蒴[さく](胞子嚢[ほうしのう])の中で成熟します。蓋が外れて蒴歯が開くと、中の胞子が放出されます。

マゴケ植物門の代表的な苔は、スギゴケ、ヒノキゴケ、ホソバオキナゴケ、タマゴケ、ハイゴケなどがあり、世界に約1万3000種、日本に約1100種が確認されています。

ゼニゴケ植物門(旧苔類)

ゼニゴケ植物門は、ゼニゴケやジャゴケが代表的な苔としてよく挙げられます。そのため、見た目は葉状体[ようじょうたい](草体が葉と茎に分かれていないもの)で、ベタッとした平たい葉のイメージが強いかもしれません。

しかし、実は、ゼニゴケ植物門の大部分は茎葉体の姿をしています。

また、ゼニゴケ植物門の葉は中肋が無く、丸みを帯びているものが多いです。特にゼニゴケは特徴的で、葉に吸盤状の無性芽器[むせいがき]をつけます。そこから無性芽を雨などの水を利用して放出することで、自分のクローンを大量に増やすことができるのです。

胞子体の蒴は4つに裂けるように開き、弾糸[だんし]と呼ばれるバネのような糸状のものを胞子と一緒に放出し、胞子を遠くまで飛ばします。

また、胞子体はマゴケ植物門のように長く残らず、役目を終えるとすぐに枯れるというのも、特徴の一つとなっています。

ゼニゴケ植物門の苔は、見た目が嫌われることも多く、苔テラリウムなどで使用されることは少ないですが、ゼニゴケやジャゴケはアクアテラリウムなどの専門店などで売られていることもあるようです。

ゼニゴケ植物門の代表的な苔は、ゼニゴケ、ジャゴケ、ムチゴケ、ウロコゴケなどがあり、世界に約8000種、日本に約600種が確認されています。

ツノゴケ植物門(旧ツノゴケ類)

ツノゴケ植物門は、苔テラリウムや苔盆栽に使用されることはまず無く、園芸店などでも売っていません。それは、見た目があまり良くないことや、見つけるのが難しいことなどが原因だと推測されます。

ツノゴケ植物門の見た目は、胞子体が角[つの]のように生えるという、決定的な特徴がありますが、胞子体が生えていないときの見た目はベタッとした葉状体であり、葉状体のゼニゴケ植物門のような見た目をしているため、見分けるのが難しいようです。

また、ツノゴケ植物門の全ての種[しゅ]が、ラン藻類(細菌類の仲間)と共生しているという特徴もあります。ラン藻類は苔に寄生[きせい]しているわけではなく、苔に窒素固定産物(養分)を提供しているため、相利共生[そうりきょうせい](互いに利益のある共生)となります。

ツノゴケ植物門の代表的な苔は、ツノゴケ、ナガサキツノゴケ、ニワツノゴケなどがありますが、世界に約400種、日本に約20種しか知られていません。

コケ植物には含まれない「コケ」

植物の中には、コケ植物ではないのに「コケ」と名のつく植物や菌類が数多く存在します。苔に似ていて紛らわしいものもありますが、これらは全く別の種類のものです。

地衣類

地衣類は、「○○ゴケ」という名称のものが多く、見た目も苔によく似ていますが、苔ではなく菌類の仲間です。

全ての地衣類が光合成を行う藻類(ラン藻類または緑藻)と共生しているという特徴を持っています。※ツノゴケ植物門と同様に、菌類は住処を、藻類は光合成産物(養分)を提供し合うという相利共生となります。

生息地は苔と同じような場所であり、苔と一緒に土や岩、木の皮などにへばりついていることもありますが、ラン藻類と共生している地衣類は黒に近い色、緑藻類と共生している地衣類は白に近い色をしているものが多いため、苔との区別はつきやすいです。

地衣類は日本に約1800種が知られているため、種類の豊富さも今のところはほぼ苔と同じくらいです。見つけるのも難しくはなく、街路樹の樹皮や山林の地表などでよく見られます。

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地衣類は、園芸ではあまり見かけませんが、見た目が良い種類も存在します。栽培できる苔と同じような場所に生えているものは、室内での栽培が可能かもしれませんね。

その他の「コケ」

クラマゴケ

クラマゴケは、似たような苔が存在する紛らわしいシダ植物です。茎の左右交互に連なる葉をつけ、地表付近を這うように生長します。

コケシノブ

薄く半透明な葉を持っているため、英語では「filmy ferns(フィルム状のシダ)」と呼ばれるシダ植物です。密集して這うように生長し、マット状になると苔のようにも見えます。

ウチワゴケ

ウチワゴケもシダ植物の一種です。一見、カサゴケのようにも見えますが、ウチワ状の平たく薄い1枚の葉っぱが開いているのが特徴的です。

サギゴケ

サギゴケは多年草の種子植物です。苔にはあまり似ておらず、紫の花を咲かせます。園芸では主に庭のグランドカバーなどに使われています。

モウセンゴケ

モウセンゴケは、甘い香りのでる粘液の付いた粘毛[ねんもう]を使い、虫を捕らえて養分とする食虫の種子植物です。日本の湿地帯にも生息し、準絶滅危惧種などに指定されています。

まとめ

世界には未だに研究が行き届いていない苔が何千種類とあるため、研究が進むに連れて分類がさらに変更されていく可能性はあるかもしれませんが、今のところコケ植物はマゴケ植物門、ゼニゴケ植物門、ツノゴケ植物門の3つに分かれており、園芸利用されているものは大体マゴケ植物門というイメージで良さそうです。

さらに詳しい分類が知りたい方は、門の下に続く分類である、亜門[あもん]、綱[こう]、亜綱[あこう]、目[もく]、科[か]などを調べてみると良いかもしれません。

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