苔は種子ではなく胞子で繁殖する植物ですが、どのように胞子が作られ、どのように胞子から生長するかご存知でしょうか。
子供の頃に学校で習った種子植物や裸子植物とは違い、胞子植物(特にコケ植物)の生長過程を知る機会はなかなか無いものです。
苔が生まれて胞子を作り、増殖していくという苔のライフサイクル(生活環)は、一体どのようなものなのでしょうか。
胞子による苔の増え方
苔の有性生殖による、胞子での増え方と生長の仕方についてお伝えします。
苔にもオスとメスがある
苔には、造精器[ぞうせいき](精子を作る器官)を持つ雄と、造卵器[ぞうらんき](卵をつくる器官)を持つ雌が存在します。そして、胞子を作るには受精が必要であり、雄株[おかぶ]・雌株[めかぶ]のどちらか一方だけでは胞子は作れません。
しかし、苔の種類によっては、雄株と雌株が別々の株に分かれる雌雄異株[しゆういしゅ]だけでなく、一株に造精器と造卵器の両方を持つ雌雄同株[しゆうどうしゅ]の種類も多いです。
その場合は、一株内で受精する自家受精[じかじゅせい]が可能な場合が多く、必ずしも別の個体を用意して他家受精[たかじゅせい]させる必要がある苔ばかりではありません。
苔を育てる際に、配偶体[はいぐうたい](葉・茎・仮根)だけでなく、胞子体[ほうしたい](蒴[さく]・蒴柄[さくへい])まで鑑賞したいという場合には、雌雄異株の苔か否かに注意しましょう。
動物ではなく植物なのに、受精?…と違和感があるかもしれません。しかし、種子植物や裸子植物の「花粉」も、じつは受粉後に精子を作りだすためのものであり、その精子も最終的には受精をするので、受精は動物だけのものではないのです。
苔の受精
花粉を作ることのできる種子植物や裸子植物の場合は、花粉を風で飛ばしたり、虫に付着させて受粉・受精することができますが、苔にはそのような手段がありません。
そのため、苔は雨水などの水を使って受精します。造精器から出た苔の精子は、水に触れると水の中で泳ぎ回り、水が造卵器にある卵へと到達したときに受精することが可能です。
つまり、苔を受精させるためには、雄と雌が近くに存在する必要があり、精子を卵へと導くための十分な水が必要ということになります。
蒴ができて胞子ができる
精子が受精した卵(受精卵)は、細胞分裂が始まり、大きくなりながら胞子体へと成長します。
受精卵は造卵器の中でどんどん大きくなるため、苔の種類によっては、途中で造卵器が上下に裂け、上部は胞子体の上に乗っかったままになります。これが帽と呼ばれるもので、マゴケ植物門に多く見られます。
成熟した胞子体は帽が外れ、基本的には、蒴[さく](先端のカプセル状の器官)と、蒴柄[さくへい](配偶体から伸びて蒴を支える茎のような部分)というシンプルな状態になります。
胞子は蒴の中でつくられ、時期が来ると放出されます。
蒴から胞子を飛ばす
蒴の中の胞子が成熟すると、蒴は胞子を飛ばしますが、胞子の飛ばし方は苔の種類によって異なります。
マゴケ植物門(蘚類)の多くは、まず蒴にある蓋が外れます。そして、蓋が外れた部分に蒴歯[さくし]と呼ばれる歯状構造のものがあり、これを開閉させることで、中の胞子を風に乗せて飛ばすことができます。
一方、ゼニゴケ植物門(苔類)とツノゴケ植物門(ツノゴケ類)の多くは、蒴が裂けて中の胞子を放出します。
マゴケ植物門のように蒴歯はありませんが、胞子と一緒に弾子[だんし]と呼ばれるバネ状の糸を出し、弾子が乾燥で弾けた勢いで、胞子を遠くに飛ばすことが可能です。
胞子から発生する苔
胞子は新しい場所に付くと、原糸体[げんしたい]という糸状のものを胞子から出し、枝分かれしながら這うように面積を広げていきます。
原糸体は、既に葉緑体を持っているため緑色に見え、一見、非常に細かい藻のような見た目をしていますが、ある大きさまで広がると、そこから苔の芽が発生します。
この芽が初めて苔らしい配偶体となり、徐々に大きくなって群落をつくるのです。
ちなみに、雌雄異株の苔の胞子は、一粒一粒の胞子の段階で雄株・雌株が決まっているそうです。そのため、一粒の胞子から広がった原糸体に発生する苔の芽は、全て雄株または雌株ということになります。
胞子以外の苔の増え方
苔の無性生殖による増え方についてお伝えします。
無性芽で増える苔
ゼニゴケやヒメジャゴケなど、ゼニゴケ植物門の一部の種類は、葉に無性芽器[むせいがき]という、小さな器のような器官ができます。
無性芽器の中では、無性芽[むせいが]と呼ばれる苔の体の一部が独立したものを複数個つくることができます。
この無性芽は雨などの水で流され、新しい場所で芽を出し、新しい株として生長することが可能です。
無性芽から新しく出た芽は、無性芽を作り出した苔の遺伝子を完全に受け継いでいるため、クローンということになります。
体の一部で増える苔
苔の増やし方に蒔き苔[まきごけ]法という方法があるように、多くの苔は、ちぎれた葉や茎の一部から新しい芽を出すことができます。
自然の中では、無性芽のように効率的ではありませんが、外部からの強い刺激がある場所から逃れながらテリトリーを広げることが可能です。
この場合も無性生殖となるため、新しく出てきた芽は元の苔の遺伝子を完全に受け継いだクローンということになります。
苔は受精によって胞子を作る有性生殖と、体の一部からクローンをつくりだす無性生殖のどちらの方法も持ち合わせている種類が多いようです。
まとめ
苔には雌雄同株と雌雄異株があり、いずれも受精によって胞子体をつくることが可能です。胞子体の形や胞子の飛ばし方は、苔の種類によって異なります。
飛ばされた胞子は新しい場所で原糸体という緑の糸を出しながら広がります。ある大きさまで広がると、そこから新しい苔の芽が出て成長します。
これらの増え方を有性生殖というのに対し、苔の体の一部から新しい芽を出して個体をつくる増え方を無性生殖といいます。
苔の多くはどちらの増え方も持ち合わせていますが、園芸では無性生殖のほうが効率が良いため、一般的な繁殖には蒔き苔法が採用されていることが多いようです。
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