【苔の体のつくり】部位の名称や特徴、分類による仕組みの違いなど

苔[コケ]

苔の体はとても単純そうな容姿をしていますが、他の植物とは微妙に違う部分や、種類によっては特徴が大きく異なる部分があるため、意外と奥が深いです。

しかし、苔の体や仕組みを知っておくと、栽培やテラリウム利用にも役立つことはあるため、基本的な特徴は覚えておいて損はありません。

そこでこの記事では、コケ植物全体の体の特徴や、分類別の部位の違いについてお伝えします。

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基本的な苔の体のつくり

コケ植物全体に共通する体の特徴を挙げると次のようになります。

葉・茎・根が無い

コケ植物は一見、葉・茎・根を全部持っているように見えますが、厳密には区別ができないものとされています。(区別できる胞子植物はシダ植物に分類されます。)

※当サイトでは便宜上、コケ植物の「葉のようなもの」や「茎のようなもの」を、「葉」や「茎」と表現していますのでご注意ください。

コケ植物の根っこのように見える部分は仮根[かこん]といい、水や栄養を吸い上げるような機能は無く、土や岩などに草体を固定するために生えています。そのため、切っても生長には影響しない場合がほとんどです。

維管束が無い

維管束[いかんそく]とは、植物が主に根から吸い上げた水や栄養を、体に行き渡らせるための管のようなものです。苔は根が無いため、維管束を持っていません。(維管束のある胞子植物はシダ植物に分類されます。)

ただしマゴケ植物門(蘚類)には、維管束に似た、道束[どうそく](または中心束)と呼ばれる水分通道のための細胞を持つ種類もあります。

どうやって苔は水を吸収するのか

苔は根を持っていませんが、葉や茎全体の細胞から直接的に水を吸収する術をもっています。そのため、苔の水やりは霧吹きで行うのが基本です。

また、葉や茎の細胞が関わっているからこそ起こる乾燥時の見た目の変化があります。それは、変水性[へんすいせい]と呼ばれる性質によるものです。

苔の葉の細胞が水を多く含んでいるときは、細胞が膨張するため、葉がピンと張った状態になりますが、水分が少なくなると膨張がおさまるため、葉が萎えて縮れたり、透明細胞が空気を含んで白くなったりします。

苔はこの変水性によって、乾燥時は一時的に休眠状態となり、激しい乾燥や日差しから身を守っているのです。

なぜ苔は原始的な陸上植物と言われるのか

陸上で生育している植物は、種子植物と胞子植物に大別されますが、これらの祖先はいずれも水中に生えている藻類[そうるい]の仲間だといわれています。

太古の昔、水中で過ごしていた植物は水のない陸地で生きていくため、地面から水を吸い上げるような仕組み(根や維管束)をもつように進化していきました。

しかし一方で、苔は変水性によって乾燥に耐え、群落をつくって雨水を蓄えるという工夫をして乾燥を乗りきってきたため、そのような進化はしなかったようです。

そのため、根や維管束を持たない体のつくりが祖先である藻類に近いため、陸上植物の中では最も原始的な植物だといわれているのです。

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苔について調べていると、いろんなところで苔は「原始的な植物」と言われていますが、こんな理由があったんですね。

種類によって異なる苔の体のつくり

苔にはマゴケ植物門(蘚類)、ゼニゴケ植物門(苔類)、ツノゴケ植物門(ツノゴケ類)がありますが、それぞれ体の仕組みが異なる部分があります。

少し専門的な話になるため、苔の生育にはあまり関係しませんが、知識として知っておくと良いかもしれません。

マゴケ植物門(蘚類)の体のつくり

マゴケ植物門の全ての苔は、茎葉体[けいようたい](草体が葉と茎に分かれているもの)という特徴があります。そして、葉、茎、仮根の部分を配偶体[はいぐうたい]と呼び、胞子をつくるために茎の先端から出てきた部分を胞子体[ほうしたい]と呼びます。

【配偶体】葉

マゴケ植物門の葉には、ほとんどの場合、中心に中肋[ちゅうろく]と呼ばれる軸があります。苔の種類によっては中肋が短いものや、葉の先端から突き出ているものなどがあります。(中肋が無いカワゴケなどのマゴケ植物門も存在します。)

また、葉の形は縁に鋸歯[きょし](ノコギリ状のギザギザの切れ込み)があるものや、全縁[ぜんえん](鋸歯をもたない滑らかな縁)になっているものがあり、これらの違いは苔を同定[どうてい](種類を見分けること)するときに役立ちます。

【配偶体】茎

茎は上に高く伸びるものや、匍匐[ほふく]して這うように横に広がるものがあります。

【配偶体】仮根

マゴケ植物門の仮根は、主に茎の基部から生え、褐色のものが多いです。ただし、全ての苔に仮根があるわけではなく、未だに謎が多いナンジャモンジャゴケ属の苔は、仮根が無いマゴケ植物門として知られています。

【胞子体】蒴柄[さくへい]

蒴柄とは、茎の先端の造卵器[ぞうらんき](雌株が卵をつくる器官)から伸びる胞子体の茎のような部分のことです。マゴケ植物門の蒴柄は比較的に硬くて頑丈なつくりになっており、胞子を放出した後も長期間残り続けます。

ただし、種類によっては蒴柄が発達しないものもあります。クロゴケなどの種類は蒴柄ではなく、配偶体の茎の先端が伸びて高さを確保します。この伸びた部分は蒴柄ではなく、偽柄[ぎへい]と呼ばれます。

【胞子体】蒴[さく]

蒴(または胞子嚢[ほうしのう])とは、蒴柄の一番上に付いているカプセル状の部分です。楕円の球形をしたものが多く、この中に胞子がつくられます。

マゴケ植物門の蒴は熟すと蓋[ふた]が脱落し、蒴歯[さくし](歯状構造の蓋のようなもの)が開閉しながら胞子を放出します。蒴歯はマゴケ植物門にのみ見られる構造の一つですが、蓋や蒴歯を持っていないマゴケ植物門も存在します。

また、蒴内部の中心には軸柱[じくちゅう]と呼ばれる柱状の組織がありますが、その機能については未だにはっきりとしていないようです。

【胞子体】帽[ぼう]

帽(または蘚帽[せんぼう])とは、マゴケ植物門特有のものであり、蒴に付随している帽子のようなもののことです。

しかし、帽は胞子体の成長過程でつくられるものではなく、元は配偶体の造卵器の一部だったものです。

胞子体は造卵器の中で大きくなりますが、その大きさに造卵器が耐えきれなくなり、上下に裂けて上半分は胞子体の先端に被ったままになります。これが帽と呼ばれるものです。ただし、一般的に帽は胞子体の成長過程で脱落します。

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マゴケ植物門の体の特徴は、茎葉体で、葉に中肋があり、仮根は茎の基部から生え、蒴柄は頑丈で、初期の蒴には帽が付随し、蒴の中心には軸柱があり、胞子は蒴歯を開閉して飛ばすものが多いようです!(例外も多いとは思いますが…。)

ゼニゴケ植物門(苔類)の体のつくり

ゼニゴケ植物門の多くは葉と茎のある茎葉体ですが、ゼニゴケやジャゴケのように地表に張り付くような葉が特徴的な、葉状体[ようじょうたい]のものもあります。

【配偶体】葉

ゼニゴケ植物門の葉は、丸みを帯びて切れ込みの入っているものが多いです。中肋は基本的にはありませんが、ゼニゴケ目やフタマタゴケ目などの苔の中には中肋を有するものも存在します。

また、茎葉体のゼニゴケ植物門は、連なった葉が茎に3列つくのが一般的で、匍匐時に下になる葉の列は腹葉[ふくよう]と呼ばれ、退化して小さくなっているものが多いです。(残りの2列は側葉[そくよう]と呼ばれます。)

ゼニゴケやヒメジャゴケなど、葉状体の苔の中には葉に無性芽器[むせいがき]と呼ばれるカップ状の器官をつける種類もあります。

無性芽器は、新しい個体(クローン)となる無性芽(体の一部が独立したもの)をつくる器官であり、雨などで無性芽が流されることによって、新しい場所で繁殖することが可能です。

また、ゼニゴケは葉状体の一部が発達した、傘状の雌器托[しきたく]や雄器托[ゆうきたく]を持ちます。

雌器托は雌株から生え、先端はヒトデのような形をしており、付け根に造卵器を持ちます。雄器托は雄株から生え、先端は皿のような形で、その中に造精器を持ちます。

【配偶体】茎

葉状体の苔には茎はありませんが、ゼニゴケ植物門の茎葉体の茎は、マゴケ植物門のように葉をつけながら生長します。

ただし、マゴケ植物門のように直立することは少なく、主に匍匐または斜上しながら広がっていくものが多いです。

【配偶体】仮根

一般的な茎葉体の茎は匍匐するため、茎の途中(腹葉の根本付近)から仮根を出しながら這うように生長するものが多いです。

葉状体の場合は茎が無いため、葉の裏側(腹側)から直接仮根を出します。

他にも、ゼニゴケ植物門の仮根は単細胞という特徴があり、多細胞であるマゴケ植物門の仮根とは異なります。

ただし、水中で生育するタイプのウキゴケのように、仮根が無い種類もあります。

【胞子体】蒴柄

ゼニゴケ植物門の蒴柄は軟弱で、胞子体は役目を終えるとすぐに枯れてしまいます。そのため、マゴケ植物門のものに比べると長く残存しません。

また、マゴケ植物門は蒴が出来上がる前に蒴柄が伸び始めますが、ゼニゴケ植物門の蒴柄は、蒴が出来上がった直後に急速に伸び始めるという違いがあります。

ただし、ウキゴケなどの一部の苔は、蒴柄が無い種類も存在します。

【胞子体】蒴

多くのゼニゴケ植物門の蒴は球形で、成熟すると黒褐色になり、蒴の中に軸柱が無いという特徴があります。

また、蓋や蒴歯を持たず、帽も基本的にはありませんが、胞子体がカリプトラ(造卵器または茎が肥大した部分)を被って伸長するものもあります。

他にも、ゼニゴケ植物門の多くは胞子を飛ばす際に蒴が4つに裂けるという特徴があり、中の胞子と一緒に付いている弾糸[だんし]と呼ばれるバネ状の糸が、乾燥で弾けた勢いで胞子を遠くまで飛ばします。

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ゼニゴケ植物門の体の特徴は、茎葉体または葉状体で、葉に中肋が無く、茎は匍匐し、仮根は茎の途中から生え、蒴柄は軟弱で、蒴は蓋・蒴歯・帽・軸柱が無く、胞子は弾糸を弾いて飛ばすものが多いようです!(例外もあります!)

ツノゴケ植物門(ツノゴケ類)の体のつくり

ツノゴケ植物門は全て葉状体であり、見た目は葉状体のゼニゴケ植物門に近いです。そのため、昔は苔類に含まれていましたが、多くの点で違いが明らかになったため、独立してツノゴケ類となりました。

【配偶体】葉

ツノゴケ植物門の葉はベタッと地表に張り付くように生育し、中肋は無く、葉緑体には、ピレノイドと呼ばれる粒状の器官があります。

ピレノイドはミカヅキモなどの藻類[そうるい]に多く見られる特徴の一つで、コケ植物の中ではツノゴケ植物門にだけ見られます。

また、葉の細胞と細胞の間に粘液の入った隙間を持ち、その中に藻類が共生しているというのも特徴の一つです。

【配偶体】仮根

ツノゴケ植物門の仮根は、ゼニゴケ植物門と同様に葉の裏側(腹側)から直接生え、単細胞です。

【胞子体】蒴

ツノゴケ植物門は、蒴柄・帽・蓋・蒴歯を持たず、胞子体の大部分は角[つの]状の蒴でできています。

蒴は熟すと2つに裂けるように開き、弾糸で胞子を飛ばしますが、弾糸はゼニゴケ植物門のように長くなく、形もはっきりとしたバネ状ではないため、偽弾糸[ぎだんし]と呼ばれることもあります。

蒴の中には軸柱があり、2つに裂けた後の蒴は軸中だけが残ります。

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ツノゴケ植物門の体の特徴は、葉状体で、葉に中肋が無く、仮根は葉の裏側から生え、角状の蒴は蒴柄・蓋・蒴歯・帽が無く、蒴の中心には軸柱があり、胞子は弾糸(偽弾糸)を弾いて飛ばすものが多いようです!(資料が少なかったのでよく分かりませんが、おそらく例外もあると思います…。)

まとめ

苔の体の部位について、苔全体を通しての特徴や、それぞれの門での特徴をまとめましたが、例外が多すぎてあまりまとまっていないかもしれません。

コケ植物は3つの門という枠でグループになっていますが、グループ内の苔すべてに当てはまる特徴は少ないようで、あくまでグループ内の「多くの」苔に当てはまる特徴と考えるのが良さそうです。

特に後半は少し専門的な知識が多くなりましたが、苔の体のつくりはまだまだ奥が深いため、興味のある方はぜひ調べてみてください。

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